【助産師執筆】妊娠20週
赤ちゃんにも影響する!?
妊娠期の貧血について理解しよう
妊娠20週に入りましたね。この時期の子宮は、子宮底(子宮の上の端)がママのおへそ、またはおへそより指1本分上の位置まで成長しています。赤ちゃんの身長は25㎝、体重は250g程度でグレープフルーツ1個分程の大きさになり、聴力はこの時期にほぼ完成します。たくさん声をかけてあげてくださいね。
また、この時期から肺サーファクタントが作られます。これは生まれた後に肺を広げるために必要なもので、肺呼吸をする哺乳類が生きるためにはとても大切な機能です。
赤ちゃんの見た目は、皮下脂肪がつきはじめ、まゆげやまつげが生え始めずいぶん人間らしくなってきます。23週の終わりごろからは、ママのおなかの外でも医療の力を借りて生きていくことが可能となりますが、新生児集中治療室でのケアが必要になります。
さて、今回のテーマは妊娠6ヵ月ごろに知ってほしい妊娠期の貧血についてです。妊娠中の貧血はママだけではなく、赤ちゃんへの影響も気になるところ。正しい知識で理解を深めましょう。
- 妊娠中は血液が薄くなり、貧血を招きやすい!
- 貧血の影響は妊娠期から産後まで続く
- 貧血だと産後うつのリスク1.6倍!
- 貧血対策は毎日の食事の見直しから
妊娠中はどうして貧血になりやすいの?
もともと女性は男性よりも貧血になりやすい特徴があります。なぜなら月経がある女性の場合、毎月体内から血液が失われるからです(経血といいます)。これにより男性よりも鉄分などの血液成分の排出量が多く、鉄欠乏性貧血を招きやすいのです。そのため、妊娠の有無に関わらず女性にとって貧血は関わりの深い疾患の一つといえます。
日本では、妊娠前に貧血を自覚している女性は4割と高く、妊娠中に貧血と診断される女性は全体の6割にものぼるというデータもあります。※1
そして妊娠すると、赤ちゃんの発育のためにママは多くの鉄分を赤ちゃんへ供給する必要があります。言い換えると、ママ達は自分の体内で作られた鉄を赤ちゃんに分け与えているということです。
血液量は約1.5倍に増加し、赤血球などの増加よりも水分量の増加が著しく、血液は水で薄められたような状態となり、結果的に貧血になるのです。加えて、お産から産後しばらくは悪露(おろ)と呼ばれる出血があったり、血液から作られる母乳も分泌しますので、産後はさらに貧血を招きやすいとされています。※2
また、妊娠中の貧血の多くは鉄分が不足する鉄欠乏性貧血ですが、まれに葉酸、またはビタミンB12が不足して起こる葉酸欠乏性貧血もあります。
妊娠28週ぐらいから急に立ち上がった時に目の前が真っ暗になり、場合によっては倒れてしまうような脳貧血を起こす人がいます。
しかし、ここでの貧血(酸素を運ぶタンパク質のヘモグロビンが低い状態のこと)と脳貧血とは別もので、鉄欠乏性貧血とは関係ありません。脳貧血の自覚がある場合はすぐに立ち上がらないで、頭が一番最後になるように起き上がると対策が出来ます。
貧血が与える影響
●妊娠期妊婦時にみられる貧血を総称して妊娠貧血と呼びます。貧血とは、血液中の酸素に結合しているヘモグロビンの濃度と、酸素を運ぶ赤血球の割合であるヘマトクリットが低下していることをいいます。
妊婦さんでは ヘモグロビンが11.0 g/dl未満、または、ヘマトクリット33%未満のとき貧血を指摘されます。その大部分は妊娠に起因する鉄欠乏性貧血、葉酸欠乏性貧血または両者を合併したものです。妊娠による貧血は一般的に無症状であることが多いですが、場合によって以下のような症状がみられる場合があります。
(1)息切れ・動悸・倦怠感(特に動作時)
(2)顔色不良・顔面蒼白
(3)起立性低血圧・立ちくらみ
(4)皮膚・爪床の蒼白感
(5)その他の不定愁訴(朝起きにくい・首や肩がこる・だるい・頭が痛いなど)※3
妊娠初期から中期に貧血だった場合、早産や低出生体重児の赤ちゃんが生まれるリスクが1.2倍を超えています。(ヘモグロビン8mg/dl〜10mg/dlの妊婦さんの赤ちゃんに多いとされています。)
そして急速に発症した重症貧血妊婦(ヘモグロビンが6 mg/dL以下)では、悲しいことですが赤ちゃんがおなかの中で亡くなるリスクも高くなります。※4
おなかにいるときに十分な鉄を蓄えられず、生後半年から1年ごろに赤ちゃんが貧血になるケースもあります。ただ、生後半年から2歳ごろには、赤ちゃんも自分で鉄分を摂らないといけなくなるので、母体が貧血でなくても鉄不足になる危険性もあることも覚えておきましょう。
貧血時の症状は動機・息切れ・倦怠感など体力がない状態です。したがって出産時に貧血の場合、お産が長引く可能性があります。さらに陣痛が弱く赤ちゃんを押し出せない(分娩停止する)可能性もあります。また、分娩時の出血も多くなり、場合によっては輸血のリスクも高まってきます。※5
産後は妊娠中のような長時間睡眠ができなくなり、初めのうちは赤ちゃんのオムツ替えや授乳などで生活リズムが乱れます。産後は体力勝負です。国立成育医療研究センターのチームによると、貧血の女性が産後にうつを発症するリスクは、貧血がない女性と比べて約6割も増えるという研究結果が出ています。貧血になると全身の倦怠(けんたい)感や疲れが取れにくくなり、気力が低下することが要因です。※6
妊娠中の貧血対策
このように妊娠期の貧血は、その後の分娩時や産後、赤ちゃんにも影響することが分かりました。では、どのように対策すれば良いのでしょうか?病院で鉄剤を処方される場合は医師の指示に従い内服を進めていく必要があります。そして日々の食事内容も意識してみましょう。
妊娠中の鉄分は妊娠前の約3.1倍の量が必要になります。鉄分の種類には消化吸収されにくい「非ヘム鉄」と、吸収されやすい「ヘム鉄」があります。吸収を助けるビタミンCやたんぱく質も一緒に摂るように心がけるようにしましょう。
・動物性食品に含まれている鉄分
・吸収率が25%と高い
代表食材…レバー、あさり、赤身肉
・植物性食品に含まれる鉄分
・吸収率が3〜5%と低い
・お茶の成分であるタンニンが吸収を阻害する
・ビタミンCやラクトフェリンで吸収率が高まる
代表食材…ほうれん草、ひじき、プルーン、納豆、小松菜
ビタミンAの過剰摂取は奇形のリスクを高めるという報告があります。鉄を多く含むレバーはヘム鉄を効率よく摂取できますが、実はビタミンAの含有量も多く、妊婦さんが頻回に食べることはお勧めできません。※7
貧血対策は気長に考えよう
妊娠中はどうしても貧血になりやすい時期であると分かって頂けたと思います。しかし鉄剤が処方されても効果が出るまでに1〜2ヵ月かかることもあります。そのことを念頭におき、毎日コツコツ鉄補給をしていくことが大切です。
小松菜など植物性の鉄は、たんぱく質やビタミンCを組み合わせると吸収率が良くなることを覚えておきましょう。女性にとって貧血は当たり前で、あまり心配していない方もいるかもしれません。ですが、妊婦さんはそうもいきません。正しい知識をつけて、ぜひ生活に活かしていただきたいです。
気になることはXで「#ミッドワイフコール」をつけてご質問ください。みなさんからの疑問・質問をお待ちしています。
※1 細川モモ,Luvtelli Baby Book The Second Edition,Luvtelli Tokyo&New York,2014,P140
※2 病気がみえるvol.10 産科第2版,メディックメディア出版,2011,P156
※3 妊娠中の貧血,MSDマニュアルプロフェッショナル版,2022/7/5閲覧,
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB/18-%E5%A9%A6%E4%BA%BA%E7%A7%91%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E7%94%A3%E7%A7%91/%E5%A6%8A%E5%A8%A0%E4%B8%AD%E3%81%AE%E5%90%88%E4%BD%B5%E7%97%87/%E5%A6%8A%E5%A8%A0%E4%B8%AD%E3%81%AE%E8%B2%A7%E8%A1%80
※4 中林 靖妊,婦貧血とはどんな病気ですか?,日本産婦人科・新生児血液学会2022/7/5閲覧,
http://www.jsognh.jp/common/files/qa/1-1-4_201604.pdf
※5 妊娠貧血,時事メディカル,2022/7/5閲覧,
https://medical.jiji.com/medical/031-0026-99
※6 産後うつ、貧血だとリスク6割増 気力低下が原因に,毎日新聞,2019/4/16
※7 妊娠中のお食事ガイド,株式会社赤ちゃん本舗,2022/7/5閲覧,
https://chirashi.akachan.jp/care/meals-during-pregnancy/?ref=211224_recipe_all
記事を執筆したのは…
株式会社With Midwife
代表取締役
岸畑 聖月
きしはた みづき
PROFILE14歳の闘病の経験から助産師を志す。学生時代に起業を経験し、助産学・経営学を学ぶため京都大学大学院医学研究科に進学。
卒後は助産師として年間約2,000件のお産を支える総合病院に勤務。その後病院の外でもケアが重要と感じ、2019年株式会社With Midwifeを創業。企業に助産師を導入する顧問助産師サービス「The CARE」などを展開する。
現在も病院で勤務しながら、株式会社赤ちゃん本舗や信州大学との連携プロジェクトを統括するほか、公益財団法人大阪産業局で女性起業家支援にも従事。また内閣府主催少子化社会対策大綱における検討会やこども家庭庁に関する大綱創設に関する検討会に有識者として出席している。
W/Storyの全記事を株式会社With Midwifeが執筆・監修。
本記事のイラスト:Junphant
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