【助産師執筆】妊娠22週
「22週の壁?」この時期に医療者が伝えたい大切なこと
妊娠22週に入りましたね。妊娠期間のちょうど真ん中にさしかかりました。出産までの折り返し地点と思うと、よくここまで成長してくれたなと嬉しい気持ちが湧いてきますね。この時期のママの変化としては、妊娠初期よりも食事量が増えたり、赤ちゃん自身も大きく成長する時期なので服を着ても妊婦だと分かるようになります。赤ちゃんの変化としては肺サーファクタントと呼ばれる出生後の呼吸に必要な物質が産生されます。
まだまだ小さな赤ちゃんですが、もし出産に至っても、22週以降からNICU(新生児集中治療室)の管理のもとで生存率は上がってきます。※1
さて、巷ではこうしたことから「22週の壁」という言葉もある様です。今回は私たち、医療者が伝えたい妊娠22週の過ごし方についてお伝えします。
- 「妊娠22週の壁」は医療用語ではない!
- 妊娠22週から赤ちゃんの蘇生ができるようになる
- おなかに滞在してる期間が長ければ後遺症のリスクは低くなる
妊娠22週の壁、その意味合いとは!?
生まれた赤ちゃんが医療的なサポートを受けられるかどうかの大きな分かれ目日本では、妊娠22週0日から36週6日を早産と定義しています。妊娠22週未満の出産を流産と呼び、早産とは区別されます。以前は妊娠24週以降が早産と定義されていましたが、日本の医療の進歩に伴い1990年に妊娠22週以降と改訂されました。※2
実は、赤ちゃんの週数だけではなく、体重も赤ちゃんが生存する重要な目安となります。この時期の赤ちゃんの体重は500g前後とまだまだ小さいので、NICUでの医療が長期間必要となります。また、早く生まれた赤ちゃんほど、後で重篤な障害が出現する可能性も高くなるといわれています。※3
また日本では妊娠22週以降でないと、生まれた赤ちゃんの医療的なサポートができません。「妊娠22週の壁」は医療用語ではありませんが、病院でも妊娠21週6日と妊娠22週0日で対応が大きく異なるため、こういった言葉が生まれたのかもしれません。
そもそも“切迫"とは、『期限が差し迫った状態』『追い詰められた状態』と国語辞典には記載されています。※4
つまり、切迫流産とは、『流産の可能性が差し迫った状態』であり、切迫早産は、『早産の可能性が差し迫った状態』と言い換えることができます。早産は全ての妊娠のうち、およそ5%に起こるといわれています。
上記でもお伝えしたように、日本の医療では妊娠22週0日から妊娠36週6日までを早産としています。ちなみに、妊娠37週0日から41週6日までの出産は“正期産”と呼び、95%の妊婦さんはこの時期に出産をします。妊娠22週未満の出産は、赤ちゃんが生きていくことが不可能とされており(生育限界と呼びます。)、残念ながら流産となります。
切迫早産について
切迫早産になったからといって、必ず早産になるということではありません。正しい治療法を受ければ、正期産で生まれる赤ちゃんも多くいます。
日本では出生率は下がっているものの、低出生体重児や早産児の割合は増えています。※5
切迫早産の背景や原因として考えられることを以下にまとめました。
切迫早産の背景や原因として
考えられること
- 妊婦の年齢の変化(35歳以上の高齢初産、未成年での妊娠)
- 細菌性腟症(腟内の感染の一つ)
- 前回の出産から半年以内の妊娠
- これまでの妊娠で早産になったことがある人の増加
- 超音波検査で子宮頸管と呼ばれる子宮の出口の長さが短いと確認される
- 子宮頸部の病気で子宮円錐切除術を受けたことがある
- 多胎(双子や三つ子など)
切迫早産の症状として、『自覚できる症状』と『自覚できない症状』の二つがあります。
【自覚できる症状】- ●おなかの張り
- 便秘の時のような皮膚のひきつれ感を抱く人や、下腹部が固く感じる人もいます。他にも痛みを伴うなど、人によって症状は様々です。
- ●性器出血
- 子宮が収縮している場合に、子宮の出口が開き、それに伴って出血する場合があります。子宮の出口に胎盤がかかっている場合も出血を起こしますので、ナプキンに血が付着する、トイレの度に出血するなどの症状がある場合には医師に相談しましょう。
- ●子宮頸管が短くなっている
- 通院している病院で超音波検査を実施して発見されることがあります。
- ●自覚できない子宮の収縮
- NSTモニタリングといわれるお腹の張りを測定する装置によって子宮収縮が発見されることがあります。
切迫早産は陣痛のように子宮の収縮が起こり、頸管長の短縮が症状として見られます。日本では子宮収縮を抑制する目的でリトドリン塩酸塩が長く使用されてきました。使用する期間も数週間と長期的なものとなります。ですが海外と比較すると、特に欧米ではリトドリン塩酸塩は48時間しか使用していません。
その背景には副作用があり、リトドリン塩酸塩を使用したママから生まれた赤ちゃんは低血糖や高カリウム血症、腸管麻痺、低血圧や不整脈などが報告されています。長期的な投与と48時間以内の投与で早産率の有意差はなかったという研究も出ています。そのため日本でも48時間以内の投与を治療方針とする施設もあるようです。
もう一つ、切迫早産の治療時に用いられるお薬として代表的なものに、硫酸マグネシウムがあります。硫酸マグネシウムは切迫早産、子癇(明らかな原因のない妊娠中のけいれん発作)、リトドリン塩酸塩を使うことの出来ない妊娠高血圧症、肺水腫、コントロール不良な甲状腺機能亢進症などの妊娠合併症の方にも使うことが可能です。ですが、こちらも重篤な副作用を招く恐れがあるのです。硫酸マグネシウムはママに投与されると胎盤を通過して赤ちゃんにも届きます。
そのため、長期的に使用した場合、赤ちゃんも高マグネシウム血症になるリスクを伴います。治療の際はママに定期的な採血検査を行い、体内のマグネシウム値が高くないか評価をして慎重に管理をおこなっていきます。
繰り返しになりますが、このような薬を長期的に使う病院もあれば、効果に差がないことから短期投与に留める病院も増えてきています。切迫早産の状況は、人や赤ちゃんの状態によって大きく異なりますので、かかりつけ医師の細かな指示を受けるようにしましょう。※6
早産で生まれた赤ちゃんの生存率
低出生体重児の割合は世界では7人に1人、先進国でも約7%と言われています。(UNICEFより)日本の高度な医療では妊娠22週0日以降を早産と設定していますが、世界ではそうでない地域もたくさんあります。※7
厚生労働科学研究等による周産期母子医療センターネットワークデータベースでは、2008〜2012 年に出生した 500g 以下の子どもでは死亡退院が 39.8% 、501g〜750g では 15.4%、751g 以上では格段に減少し10% 以下となっています。※8
在胎週数別では22・23 週で 33.9%、24・25 週で 13.5%、26 週以上では 10% 以下となっています。ここからみても赤ちゃんにとって週数と出生体重の両方が大切であることが分かります。
生まれる時期が早ければ早いほど、亡くなるリスクや後遺症が重くなるとされています。
早産にならないための過ごし方
切妊娠中は心も体も無理は禁物です。ストレスを溜め込まず、疲れたら休む習慣を身につけましょう。また周囲の人を頼ることも大切です。パパに家事をお願いしてみたり、おなかが張る自覚がある場合には早めに主治医に相談しましょう。
早産の原因は様々ですが、子宮内の感染によって引き起こされるものもあります。清潔を保ち、妊娠中の性行為では必ずコンドームを使用し、性感染症を予防するようにしましょう。
感染症の面では、歯周病を罹患すると分泌される炎症物質が子宮を収縮させるリスクがあります。母子手帳にも歯科検診のページが設けられていますので早めに検診に行くようにしましょう。※9
まとめ
21週6日と22週0日ではできることが変わってきます。早産は、ママの行動で必ず防げることではありませんが、早めに気づいて対処することは重要です。この記事が、早産にならない様にご自身の体と対話するきっかけになれば嬉しいです。
気になることはXで「#ミッドワイフコール」をつけてご質問ください。みなさんからの疑問・質問をお待ちしています。
※1 病気がみえるvol.10 産科第2版,メディックメディア出版,2011,p8
※2 “妊娠22週”助けられない命,サイカルjournal by NHK,2019/10/8,
https://www3.nhk.or.jp/news/special/sci_cul/2019/10/story/20191008_story/
※3 早産・切迫早産,公益社団法人日本産科婦人科学会,2022/7/25閲覧,
https://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=5#:~:text=%E6%97%A9%E7%94%A3%E3%81%A8%E3%81%AF%E6%AD%A3%E6%9C%9F,%E3%81%A8%E3%81%AF%E5%8C%BA%E5%88%A5%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
※4 切迫,広辞苑無料検索,2022/7/25閲覧,
https://sakura-paris.org/dict/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%9B%BD%E8%AA%9E%E5%A4%A7%E8%BE%9E%E5%85%B8/content/11894_468
※5 低出生体重児保健指導マニュアル~小さく生まれた赤ちゃんの地域支援~,厚生労働省,2014,
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/boshi-hoken/dl/kenkou-0314c.pdf
※6 大槻克文,早産予防管理の動向,日本周産期・新生児医学会雑誌第56巻第1号,2020
※7 低出生体重児、世界で7人に1人、先進国でも約7%、改善進まず 世界的医学専門誌『ランセット』で論文を発表,unicef,2022/7/25閲覧, ※8 低出生体重児保健指導マニュアル 小さく生まれた赤ちゃんの地域支援,小さく産まれた赤ちゃんへの保健指導のあり方に関する調査 研究会,2019 ※9 牧野 利彦,妊産婦における口腔健康管理の重要性,公益社団法人日本歯科医師会,2019
https://www.unicef.or.jp/news/2019/0071.html
記事を執筆したのは…
株式会社With Midwife
代表取締役
岸畑 聖月
きしはた みづき
PROFILE14歳の闘病の経験から助産師を志す。学生時代に起業を経験し、助産学・経営学を学ぶため京都大学大学院医学研究科に進学。
卒後は助産師として年間約2,000件のお産を支える総合病院に勤務。その後病院の外でもケアが重要と感じ、2019年株式会社With Midwifeを創業。企業に助産師を導入する顧問助産師サービス「The CARE」などを展開する。
現在も病院で勤務しながら、株式会社赤ちゃん本舗や信州大学との連携プロジェクトを統括するほか、公益財団法人大阪産業局で女性起業家支援にも従事。また内閣府主催少子化社会対策大綱における検討会やこども家庭庁に関する大綱創設に関する検討会に有識者として出席している。
W/Storyの全記事を株式会社With Midwifeが執筆・監修。
本記事のイラスト:Junphant
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