【助産師執筆】妊娠30週
妊娠中に起こる高血圧が危険!
実際に知って早期発見と対策を
妊娠30週となりました。この時期の赤ちゃんは、体重が約1100〜1800gで※1、おなかの中で縦になって落ち着きます。逆子になった場合は、多くの場合が帝王切開になりますが、直前にクルっと回って頭位(頭が下になる赤ちゃんの姿勢)になる事もありますので、普段通りの生活を心がけましょう。
お母さんの心拍数もピークになり、おなかも大きくなって張りやすく感じるお母さんもいるかもしれません。そんな時は、少し休んでおなかの張りが落ち着くのを待ちましょう。可能であれば横になるのがおすすめですが、難しければ座って様子をみましょう。
妊娠30週頃になると母体にも負担が増え、気を付けるべき疾患もでてきます。その中でも、今日は妊娠高血圧症候群についてお話ししたいと思います。
- 妊娠高血圧症候群は血圧だけではなく、全身状態へ影響
- お母さん・赤ちゃんに何かあれば速やかに分娩
- 受診はためらわずにタイミングを逃さない!
- 重症になるときに進行が速い
妊娠高血圧症候群ってなに?
妊娠高血圧症候群とは、妊娠時に高血圧を発症する状態で、時にはたんぱく尿を伴う場合があります※2。名前からも血圧だけに関係するようにも思えますが、すべての臓器に影響する場合もありますので、放っておくととても怖い病気なのです。
妊娠高血圧症候群の診断上の血圧が140mmHg以上、または下の血圧が90mmHg以上の場合は高血圧と診断されます。 特に、上の血圧が160mmHg以上、または下の血圧が110mmHg以上の場合には重症と規定されます※2。
また、浮腫みは定義からは除外されていますが、重要な症状の一つです。急激な体重増加にも注意が必要です。体の中にお水をため込んで、その結果血圧が上がっているかもしれません。
妊娠高血圧症候群になりやすい妊婦さんの胎盤は、中の細い血管が広がりにくく、赤ちゃんに酸素を十分に送れなくなります。そして、妊娠初期から低酸素の状態が持続すると、胎盤が刺激され、その結果お母さんの血管へ影響がでて、血圧が上昇すると言われています。
食事やライフスタイルによる影響も考えなければいけませんが、妊娠さんの母親や姉妹が妊娠中に高血圧になった場合は、ある程度の遺伝性があるとも言われています。
また、その他の原因としても以下のような項目が考えられます。(表1)
お母さんと赤ちゃんにどんな変化があるの?
お母さんに起こること妊娠高血圧症候群が悪化すると、全身のいたるところに障害が出てきます。例えば、心臓に負担がかかったり、脳が浮腫んで全身の痙攣が起きたり、胎盤が剥がれやすくなったり、肺にお水が溜まったりします※5。
また、
- 血液の中の赤血球が壊れる
- 肝臓の機能が悪くなる
- 出血を止める働きを持つ血小板が減少する
しかし、血圧が上がり症状が出る前に、採血の結果でHELLP症候群であることが分かる事もあります。その場合は、速やかに赤ちゃんをおなかから出してあげることが必要です※6。 赤ちゃんに起こること
赤ちゃんへの影響としては、胎盤の機能が不十分になることで、酸素や栄養が届きにくくなり、平均より小さめの発育で推移する場合があります。また羊水も少なめになります。最終的に赤ちゃんに影響を及ぼす可能性もあり、その場合は、誘発分娩や帝王切開で早めに出産する必要があります。
妊娠高血圧症候群になったらどうなるの?
生活の中で気を付けること医師の指示に従い、自宅での血圧を記録しましょう。決まった時間に体重計にのることも、急激な浮腫みの早期発見のために良いでしょう。塩分やカロリーが少なめでバランスの良い食事を心がけ、散歩などの適度な運動を行い体重管理に注意していくことで、発症を遅らせる可能性があります※3。
しかし、浮腫みがひどいときや疲労感があるときは安静も必要です。腎臓は血圧をコントロールしている臓器なのですが、横になることで腎臓への血流量を増やせます。また腎臓のある腰回りを温めることも、血流を促進するためにはおすすめです。(※必ずしも血圧が下がるわけではありません。)
自宅血圧で135/85mmHg以上が複数回続く場合や、一時的でも160/110mmHg以上となった場合は、昼夜を問わず連絡することが必要です※7。また、500g/週以上の体重増加や浮腫みが強くなって、まぶたが重く感じたり、指輪や今まで履いていた靴が急にきつくなったりしたら、次の妊婦健診を待たずに受診してみましょう。受診のタイミングについて、しっかりと医師に確認しておきましょう。
そのほか、頭痛、吐き気、目がチカチカする、呼吸が苦しいという症状は血圧上昇に伴う症状なので、これらの症状がある場合にも受診しましょう。受診の際は「妊娠高血圧症候群と診断されている」と伝えることで、医療者もすぐに理解でき、より早急な対応ができます※8。
外来管理の場合は、医師の指示通りに自宅で血圧測定をして、その推移を確認します。入院した場合は、安静にしてもらい、時には内服や点滴を使って血圧をコントロールします。赤ちゃんの状態をモニターやエコー検査をしながら、定期的に観察します。
出産はどうなるの?
お母さんか赤ちゃんのどちらかが危険な状態になったときは、例え週数が早い場合でも、出産を考え始めます。状況によっては、点滴で陣痛を起こす誘発分娩にトライするかもしれません。妊娠高血圧症候群の赤ちゃんは、ただでさえ体に負担がかかる環境で過ごしているので、陣痛に耐えられない場合には、帝王切開になります。
また、お母さんの血圧や採血データが急激に悪くなった場合や、赤ちゃんの元気さが急に無くなった場合には、帝王切開で速やかに赤ちゃんを出してあげます。
進行はとても速い!今一度生活習慣を見直そう!
妊娠高血圧症候群は、進行が速いことも特徴です。血圧以外の異常はなかったのに、HELLP症候群にたった数時間で移行することもあります。展開が速く戸惑うこともあるかもしれません。医療機関では出来る限り事前にこれから起こりうる説明を行うようにしています。いざという時には、医師や助産師を頼ってくださいね。
妊娠中期は体の調子も良く、体を労わることを忘れてしまいがちなのですが、今後無理がたたることも多いです。今一度、高血圧予防とお産へのからだ作りに向けて、生活習慣や食生活を見直してみましょう。
また、気になることはXで「#ミッドワイフコール」をつけてご質問ください。みなさんからの疑問・質問をお待ちしています。
※1 胎児計測と胎児発育曲線について ,日本産科婦人科学会周産期委員会,2022/3/25閲覧,
https://www.jaog.or.jp/sep2012/JAPANESE/PUB/ninken/jsog_20111024.pdf
※2 日本妊娠高血圧学会,妊娠高血圧症候群 新定義・分類 運用上のポイント,メジカルビュー社,2019,p.8-15
※3 PERINATAL CARE(ペリネイタルケア)2020年5月号,メディカ出版,2020,p.452-457
※4 日本妊娠高血圧学会,妊娠高血圧症候群の診療指針2015:Best Practice Guide, メジカルビュー社, 2015, p.42-7
※5 医療情報科学研究所,病気がみえるvol.10 産科第3版,,メディックメディア,2013,104
※6 医療情報科学研究所,病気がみえるvol.10 産科第3版,メディックメディア,2013,p.112-113
※7 日本妊娠高血圧学会,(旧版)妊娠高血圧症候群の診療指針 2015 -Best Practice Guide-,2015, p54-5
※8 PERINATAL CARE(ペリネイタルケア)2020年5月号,メディカ出版,2020,p.478-481
記事を執筆したのは…
株式会社With Midwife
代表取締役
岸畑 聖月
きしはた みづき
PROFILE14歳の闘病の経験から助産師を志す。学生時代に起業を経験し、助産学・経営学を学ぶため京都大学大学院医学研究科に進学。
卒後は助産師として年間約2,000件のお産を支える総合病院に勤務。その後病院の外でもケアが重要と感じ、2019年株式会社With Midwifeを創業。企業に助産師を導入する顧問助産師サービス「The CARE」などを展開する。
現在も病院で勤務しながら、株式会社赤ちゃん本舗や信州大学との連携プロジェクトを統括するほか、公益財団法人大阪産業局で女性起業家支援にも従事。また内閣府主催少子化社会対策大綱における検討会やこども家庭庁に関する大綱創設に関する検討会に有識者として出席している。
W/Storyの全記事を株式会社With Midwifeが執筆・監修。
本記事のイラスト:Junphant
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